2012年11月8日木曜日

清水さん 『日本語のゆくえ』について<1>


※以下 川名潤さん=川、清水良洋さん=清、関善之さん=関、オザワ=オ







お待たせしました!
いよいよ清水さんの『日本語のゆくえ』(吉本隆明/光文社)のお話1回目です。


清 「この本はね。
   光文社の編集部内で、
   『吉本さんの本を今までやったことがないデザイナーにやらせよう』
   ってなったらしくて。
   そこで、7人ぐらいぐらいだったかな?、数名の候補が挙がって、
   どういうことかわからないけど、オレのところに依頼が来たんですよ」

















 「吉本さんて、詩人じゃないですか。
   でも、吉本さんはこの本ができた2008年頃までのかなりの年月、
   現代詩に関しての評論をされてこなかったそうなんです。
   しかし、お年も召されて、足も悪くなられた折、
   東京工業大学で、芸術論や詩のことをビデオ講義することになって、
   改めて、現代詩の人たちの作品を読んだそうなんですよ。
   そこで思わず出た言葉は『ムムッ、無だぁ〜』なんですって(笑)
   詩の中に自然観が語られていないことにびっくりされ、
   『日本語はどうなってしまうんだ』って思われたそうです。

   それでこの本は、その東京工業大学の講義が元になっているんですが、
   今までの吉本さんの本ていう佇まいではなく、どこか崩れた感じっていうか、
   『よしもとばななさんのお父さんでしょ?』
   くらいの人も興味を持って買ってくれる本にしよう、
   ってことになったんですね。

   で、ゲラを読んでみて、確かに自然が見えてこないということを語られていて、
   ならばその辺を表現しようと考えて、
   <デュプレ>というクラフトペーパーをカバー等に使ったんです。
   <デュプレ>って紙は片面がクラフト紙のままですが、片面は白。
   つまり晒クラフトと未晒クラフトの抄き合せの紙なんです。


   カバーの表は白で、めくった裏側(見えない部分)に
   自然を感じるクラフト面が隠れているという案配です。
   表紙もクラフト紙にしているので
   カバーをめくると、表からはイメージ出来ない
   カバー裏と表紙のクラフト紙一面の世界がバっと広がるんですね
   表には〈自然的な世界が見えて来ない、という見立てなんです。
   それで、こうして日の丸も『ぽつん』とあって。
   またこの赤い丸も正円でない、ちょっと歪んだ楕円なんですよ


川・関「うんうん」
















清 「これ、ほら、背もね、こんな感じで。
   文字を白のオペークインキで刷ってるんですが
   クラフト紙だから、
   通常ならオペークに白は2度刷りとか3度刷りとかやるんだけど、
   こう見えるか見えないかくらいに印刷してあるわけ。
   背の日の丸も、文字を上に乗せて見え隠れする感じにしたんですよ」















この間、川名さん、関さんは、清水さんの説明を感心して聞いています。


オ 「こうして紙の種類や印刷方法で本の中身である
   『自然や日本語の危うさ』を表現してるわけですね」


おもしろいですね。
デザイナーさんは、いろんな方法でその本の中身を表現する努力をしているんですね。
これからは、装丁のひとつひとつの意味を考えたくなります。



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<お知らせ>
・清水さん、川名さん情報
 東京・外苑前/ギャラリーDAZZLEにて『ポスターを描く3』に参加。
 ※清水さんはこの展示の企画・運営もされています

・関さん情報
 明治大学 中野キャンパス オープン記念講座『漫画のデザイン』講師として参加

2012年11月7日水曜日

川名さん『きつねのつき』について<3>

※以下 川名潤さん=川、清水良洋さん=清、関善之さん=関、オザワ=オ





大変、大変、長らくお待たせしました。
なんと4ヶ月ぶりの更新です...。
川名さんの『きつねのつき』(北野勇作/河出書房新社)のお話3回目です。


関 「中もフランス装にしてるし、かわいいですね」

清 「これはクライアントから出たの?
   
川 「ああ。これは編集者が『フランス装にしたいです』ということで」

清 「おお〜。いいねえ」

関 「じゃあ、それは乗っかっちゃいますよね(笑)」


フランス表紙















清 「こうやって紙を縁に折り込んだ装丁」


川 「このくるっとなった状態の表紙をフランス表紙って言います」


関 「本来、これは本を作り直すっていう仮定の下に作られてるんです。
   でも、日本ではそれがおしゃれだな、って感じたんでしょうね。
   なので普段そのまま表紙としてあしらわれていますよね」

川 「そうですね。
   たしかにこの本は、おしゃれになったらいいなと思って作りました(笑)」

清 「ヨーロッパとかでは、紙の束で売っていて、自分で好きなように作り直すんです。
   自家製本って言ってね。
   ほら、横も『化粧断ち』って言って、キレイに断裁されてるのが普通なんだけど、   これ、キレイに断裁されてないんですよね」

オ 「これは、なんて言うんですか?」

川 「『天アンカット』です。『天』をカットしないんです。
    古い本の雰囲気になるんですよね」

天アンカット ※写真をクリックすると拡大できます















関 「アンカット本てね、断裁してないからページが袋綴じになっていて、
   自分で開かないといけない本とかもあるんですよ」

川 「そう。本当はそれが本来のフランス装ですね。
   でもそれじゃあ、さすがに今は不便なので、
   きちんと裁断した本文に、フランス表紙をくっつけてる。
   正式には『仮フランス装』って名前です。
   普段は『本フランス装』なんて贅沢な本を作れる機会がないので
   『仮』を略しちゃうことが多いんですけど」

関 「本ていうのは、本来、お金持ちの楽しみだったと思うんですよ。
   なので、1ページずつ割いて、時間をかけてゆっくり読書していたんでしょうね」

清 「ペーパーナイフで『ぴっ』ってね。
   向こうは封筒とかもそれで開けたりするじゃない。
   そういう文化なんだよね」

関 「これはとにかく、かわいい本ですよね」

川 「ありがとうございます」
   


この本のかわいさを通して、たくさん、本についての知識が学ぶことができました。


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 東京・外苑前/ギャラリーDAZZLEにて『ポスターを描く3』に参加。
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 明治大学 中野キャンパス オープン記念講座『漫画のデザイン』講師として参加
https://academy.meiji.jp/course/detail/959/

2012年6月28日木曜日

川名さん『きつねのつき』について<2>


大変長らくお待たせしました!
川名さんの『きつねのつき』(北野勇作/河出書房新社)のお話2回目です。


関 「これは1回、白、刷ってるんですか?
   
川 「いえ、クラフト紙の白ですね」

清 「こういうやつ。(ご自身が持っていらした『日本語のゆくえ』を取り出す)」
















関・オ 「おお〜」

川 「一緒ですね」

清 「よく使うんだよ」
   
写真をクリックすると拡大できます















関 「これ、オビのところ。
   右のほうは字間が空いてるのに左のほうは字間が詰まってるんですね。
   左の詰まってるほうに字間を合わせないんですね。
   天地を取ったってことですよね?
   おもしろいなあ」

川 「わー。なんか、今、緊張してきた(笑)」

関 「いやいや、こういうのもおもしろいじゃない。
   自分だったらやらないんだけど、こういうのっておもしろいじゃない。
   だから、人の仕事はおもしろいんです」

清 「この書体は何?」

川 「これはですねー。『くれたけ』ですね」

関 「こういうかわいい書体、いっぱい使いますよね」

川 「そうですね。
   わりとカワイイものオファーが増えてきたので」

関 「書体が少ないんで、自分で作っちゃったりしますよね。
   あまく(=少しぼかす感じに)したりして作るんです」

清 「あまくするのって、フォトショ(=フォトショップ)へ持って行くの?」
   ガウスかけてもう1回、二階調にして戻してって感じ?」

関 「そうです。そうです」

清 「『くれたけ』は古いのがかわいかったりするよね」

川 「そうですね」

清 「漢字は何を合わせてるの?」

川 「そうですね。イワタの昔のCIDかなんかを角を落としたりしてますね」

清 「なるほど。そうしないと合わないもんね」



次回はさらにこの本のかわいさにこだわった部分に入っていきますよ。

2012年4月13日金曜日

川名さん『きつねのつき』について<1>

※以下 川名潤さん=川、清水良洋さん=清、関善之さん=関、オザワ=オ


















川名さんの『きつねのつき』(北野勇作/河出書房新社)のお話1回目です。
























川 「この本はですね。
   関さんのパープルヘイズぐらいにけっこうラフを描いたんですよ」


関 「ああ、そうなんだ」


オ 「そして、イラストはどなたかにちゃんと頼まれたんですね」


川 「そうです。
   西島大介さんという漫画方の方にお願いして」


オ 「『これ、自分で描いちゃおう』っていうことはないんですか?」


関 「それはやっぱりダメでしょう(笑)
   僕も自分で描こうとしたこともありますけど、
   たいてい作家さんやイラストレーターさんにお願いしましょう
   ってなりますね」


川 (笑)


清 「関さん、特に漫画(の装丁)ですもんね。
   漫画家さんの作品は無理でしょうけど、
   読み物の本のときに自分の絵を使っちゃうって考えないんですか?」


関 「いや、ありますよ。
   だから、ラフのときに自分のタマ(絵)も入れちゃっとくんです(笑)」


オ 「それで使用されたことはありますか?」


関 「ないですね。
   やっぱり作家さんやイラストレーターさんの名前が欲しいですしね」


オ 「そういうもんですか。やっぱり。
   そして、『きつねのつき』は...」


川 「はい。
   僕もラフをけっこう描いて一案として出してたんですけど、
   西島さんに実際に原稿を読んでいただいて、
   できあがってきたのを見ようと話していたら、
   わりと全然違うものが出てきたんです。
   そして、やっぱりこっちがいいね、となりまして」
   
関 「ああ」


川 「そして、西島さんの案に乗っかって作った形ですね」


オ 「なるほど」


川 「だから、自分のラフは
   イラストレーターさんにお願いする際の
   きっかけにしかなってないですね。
   こういう絵をお願いします、っていう」


関 「うん。
   実は、みなさん、ゼロからイラストってなかなか浮かばなくて、
   『こういうことをわたしは考えました』って
   いうことをお伝えすると、
   『自分だったらこうするよ』とか
   『ああ、いいですね』って返ってきますからね。
   だから、そういうきっかけは僕らが投げなきゃですよね」


清 「そうだよね」


川 「なかなか、『おまかせします』って。
   失礼で言えないって言うか」


オ 「人によってはおまかせでいいかもしれないですけど」


関 「そうですよね」


オ 「自分なんかも指示していただいたほうがいいですね。
   『おまかせで』って言われても
   たぶん『どんなのがいいですかね」って聞いちゃいますね」


イラストレーターでもあるオザワ。
やや雄弁になっており、録音を聞きながら恥ずかしく思ったり...。
次回は紙や印刷についてのお話になっていきますよ。


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